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西陣織が、テクノロジーと出会ってウェアラブルデバイスとなる。「細尾」12代目の伝統を継承するという考え

2016.09.01

(文章:塩谷舞 写真:川久保美桜)


海外旅行に行ったとき、周りを見渡せばみんな手にしているのはiPhone。画面を覗き込めば、LINEかInstagramかポケモンGO。手持ちのドレスがなければ、「ZARAはどこ?」で即解決する。

あらゆるモノが万国共通になっていくと、大都会の風景はどこも大体似たような感じになっていく。便利だけれども、あまりにもフラットでつまらない。

そんな時代だからこそ、その国独自のアイデンティティーとなるようなもののニーズが増えていく。さらに、ただ古くからある文化を継承するだけではなく、「伝統工芸×イノベーション」というキャッチコピーを掲げたモノが巷に続々と登場してくる。

けれども、新しい業界でゼロからビジネスを立ち上げるのとは、難易度が違う。緻密な技術を伝承する伝統工芸と、嗅覚と開拓心によって切り開くイノベーション。属性はあまりにもかけ離れている。その「嗅覚」がわからずにぐるぐると試行錯誤したり、人間関係の問題にぶち当たってしまうことの方が多いだろう。

この記事で紹介するのは、OKAZAKI LOOPSのディレクターの一人であり、1200年の歴史がある伝統工芸・西陣織の名家である「細尾」、その12代目である細尾真孝さん。

彼は恐ろしいほどに鋭い嗅覚を持った、西陣織のイノベーターだ。

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セックス・ピストルズに、初期のメゾンキツネ……カルチャーを愛した名家の長男

細尾真孝さん、38歳。彼の経歴は凄まじい。

「細尾」という西陣織の名家に長男として生まれたものの、家業には一切関心を持たず、高校時代にはセックス・ピストルズに心酔。ギターを鳴らしては叫んでいたそうだ。そこまでなら「若い頃は…」という思い出話程度で済まされるかもしれないけれども、その後プロミュージシャンとして高木正勝らと同じレーベルに所属。

かと思いきや、23歳の頃には初期のMAISON KITSUNÉ(メゾンキツネ)に影響を受け、ファッションブランドを立ち上げる。今から15年も昔、「キツネ」なんてブランドを知っている日本人がどれくらいいただろう。彼が立ち上げたファッションブランドも、名のあるセレクトショップに商品を展開。ここまでのエピソードだけを聞くと、彼がどれほど嗅覚と才能と運気に恵まれた人なのだろう、と嫉妬してしまう。

しかし、流通や卸売のことを知らずに始めたファッションブランド。ファンはつけど業績はついてこず、大手高級ジュエリーメーカーに就職して「商売」と「生産」のいろはを学ぶことに……。


音楽、ファッション、そして商売。いずれもその分野の第一線に食いかかっていった彼は、30歳にして会社を辞め、家業の西陣織を継ぐことを決意する。1200年の名家の歴史に「12代目」が就任した。

だが、西陣織のマーケットそのものは彼が生まれた30年前と比較して、10分の1にも縮小していた。周囲の家もみんな西陣織やその関連業を営む……という特殊な環境で生まれ育った彼自身、その衰退を誰よりも肌で感じていたことだろう。

一体どんな経緯で、そのエネルギーを家業に注ぎ込むことになったのだろう? そして「西陣織」という5世紀末から続く伝統工芸を、今どのような形で継承しているのだろう。

そんなことを聞きたくて取材に訪れると、先にいたお客さんは外国人のビジネスマン。なにか商談をしていた。「先ほどはどんなお話を?」と聞いてみるとー…

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バイオテクノロジーを取り入れた、光る西陣織

細尾「今開発中なので詳しくはお伝えできないのですが……西陣織に電子回路を織り込み、ウェアラブルデバイスとして構築していくための打ち合わせをしていました」

ーー西陣織に、電子回路を?

細尾「はい。西陣織の特徴のひとつに、様々な種類の細い糸を立体的に織り分けることが出来る……という点があります。150センチの生地の中に、縦糸が9千本入っている。その縦糸と横糸をプログラムで1本1本コントロールして織っていくと、布を複数のレイヤーに分けて、建築物のように組み立てていくことが出来るんですよ」

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細尾「たとえば、糸に特殊インクを染み込ませて半導体化させると、織物自体をスイッチのように扱えます。たとえばその織物を車の運転席のシートに使うと、運転手の体制を24時間スキャニングして、居眠りしたら自動的に車を止める……なんてことも出来るかもしれません」

ーーそんなところまで進んでいるんですか。

細尾「車のシート以外にも、アスリートのスポーツウェアや、宇宙服という展望もあります。さらには、バイオテクノロジーを取り入れることにも可能性を感じているんです」

ーー生物の遺伝子を組み込む、ということでしょうか?

細尾「はい。たとえばシルクを作るための蚕(かいこ)にクラゲのDNAを入れると、光るシルクが出来るんですよ」

ーーあぁ……確か光るシルクで出来たドレスを、新宿のGUCCIで見かけたことがあります。



細尾「アーティストの、スプツニ子!さんの作品ですよね。あちらの光るシルクは、細尾で制作・技術提供したものなんです」

ーーそうだったんですか!

細尾「クラゲ以外にも、たとえばクモですね。クモの糸って、束にするとスペースシャトルも持ち上げるほどの強度があるんです。まるでスパイダーマンの世界ですよね。そんなクモの強度を持った織物も作っていきたい」

ーー西陣織というと贅沢品というイメージがありましたが、なんと実用的な……。

マサチューセッツ工科大学にフェローとして就任

ーーでも、そのような織物の研究・実現は、当然従来の西陣織の工房だけでは難しいですよね? 一体、どんな研究機関と開発されていくのでしょう。

細尾「今年から、MIT(マサチューセッツ工科大学)にDirector’s Fellowという立場で入らせていただいたんです。そこで世界最先端の研究者と共同開発できるようになったので、これからはお話したようなクモの糸や宇宙服のような妄想も、彼らの研究と実行力をもって、共に実現させていきたい」

ーーそれは、本当に楽しみです。西陣織で出来たウェアラブルデバイスの宇宙服が出来たら、日本が世界に誇るものになりますね。

(※現在、MITのDirector’s Fellowに就任しているのは世界各国の24人。デンマークにある世界一のレストランnomaのサイエンティストや、サッカーの本田圭佑選手もその一員だ)

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ーーどのお話もあまりに刺激的なのですが、家業を継がれた30歳の頃、細尾さんの思想は周囲に受け入れられたのでしょうか?「若者がなにを言い出すんだ!」というような反発はなかったのでしょうか……?

細尾「大きな衝突はなかったですね。父も元々は商社勤務していましたし、歴の長いの職人もジャズのドラマーをやっていて。うちには、少しやんちゃな要素があるのかもしれない(笑)。もちろん、様々なアートやプロダクトにコミッションする今でも、帯を作るという仕事は細尾の軸としてあり続けています。

ただ、西陣織という技術を今自分がどう扱うか……ということ以上に、次の50年、100年、500年先の世代にどうバトンタッチするかも重要なんです。だから工房は若い人が中心になって、西陣織の未来を考えていきますね」

ーー1200年続いたものを、どれだけ遠い未来に伝えていくか……。絶やさず継承する、大切なお仕事ですね。

7km圏内の狭い範囲で、1200年間も継承されてきた強い文化

ーーちなみに細尾さんは、京都の伝統工芸を繋げた「GO ON」というプロジェクトも主催されていたり、「京都でクラフトビエンナーレを開催したい」と仰っていた記事もありました。やはり、生まれ育った京都という土地へも、思い入れがあるのでしょうか。

細尾「京都って、実はあまり国際都市化されてこなかった、と思うんです。もちろんポテンシャルはあるのですが」

ーーそうなのでしょうか?

細尾「世の中の工業製品は、各部品を異なる地域や国で生産することが多い。でも西陣織の場合、1200年の間、京都市内だけで作り続けてきたんですよね。それも”西陣”と呼ばれる、7km圏内の狭いエリアにすべての職人が集まっているんです。

これは、海外から見たときにも圧倒的なインパクトがあるんですよ。西陣織だけではなく、他の伝統工芸でも同じことが言えると思います。」

ーー確かに、どこの大都市もファストファッションやファストフードに文化が食われてしまう中で、京都のような揺るがない文化を持った都市は強いですよね。

細尾「クリエイターもどんどん移住してきているし、もっと面白い文化発信地になると思いますよ。

まもなく開催する京都岡崎音楽祭・OKAZAKI LOOPSでも、アートや音楽とのクロスカルチャーを掲げていますが、京都に根付く着物も、お茶も、お花、能や食も……すべてが生活と密に関わって生まれたクロスカルチャーですよね。

だから、OKAZAKI LOOPSのような音楽祭は今後、お坊さんや旅館の女将さん、料理人なんかも関わるものとして発展する可能性があって、面白みを感じています。その多様性を提供出来るのは、京都ならではの強みです」

バレエという西洋の伝統と、東洋の伝統が重なり合う

ーーOKAZAKI LOOPSで細尾さんは、バレエダンサーの首藤康之さんらが踊る公演の舞台衣装や、舞台美術を手がけられますよね。バレエという西洋の伝統的な文化と西陣織がコラボレーションするのは、歴史上初めてのことでしょうか?

opening首藤康之氏と細尾真孝氏による特別プログラム・LOOPSオープニング

細尾「おそらく、僕の知る限りだと、これが初めてですね。

ですが、西陣織は着物の帯だけではなくて、能の衣装やお寺の内装にも使われて来ました。それに僕自身はもともと音楽をやっていたこともあり、舞台表現には親しみがあった。

バレエという西洋の伝統的な芸術と、東洋の西陣織。どちらも歴史を受け継いできたものを、時間をかけて組み合わせていく……というのは面白い仕事ですね」

mainhall1会場となる、ロームシアター京都 メインホール

ーーどんな衣装や舞台装置が出来上がっているのでしょう?

細尾「ネタバレになるからあまり話したくないのですが……(笑)。でも、見たことのないものが出来ている、ということはお伝えできます。それも、見られるのはLOOPSオープニングの一夜だけ、という」

ーー本来贅沢品の西陣織を、一夜かぎりのパフォーマンスのために作り上げるだなんて、なんと贅沢な……。

細尾「少しだけお伝えすると、今回のシアターは天井が15メートルの吹き抜け。その環境で織物がどのように見えるか……ということを一番に考えて作っています。そして、その延長にバレエダンサーの衣装がある。衣装は、実際に踊ってもらって、動きやすさと、動いたときの見え方を考えてアップデートしていきました」

ーー東洋のバレエ衣装、楽しみです。音楽や映像も、このために作り上げたんですよね。 それはどなたが?

細尾「途中からピアニストの福間洸太朗さんが演奏されるのですが、出だしの音と、映像は私が……」

ーーえっ、細尾さんが?!

細尾「錚々たる音楽家やメディアアーティストの集まる、音楽祭のオープニングなんですけどね……そこで映像と音楽を披露するのは、なかなかのプレッシャーです(笑)」

ーー細尾さんの音楽とファッションのバックグラウンドが、どのような演出になるのか……そこも大きな楽しみですね。本日は本当に面白いお話を、ありがとうございました!

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ーー東洋と西洋の伝統を掛け合わせた、一夜限りのバレエ公演。1200年の「細尾」の歴史に、また新たな未来が示される夜にもなるのだろう。

細尾さんは、OKAZAKI LOOPS内でもトークショーや西陣織のワークショップを開催する。その鋭い嗅覚と豊かな発想に、是非とも生で触れて欲しい。

古いもの、新しいもの、様々な文化が集まる京都の祭。OKAZAKI LOOPSは、いよいよ今週末開催だ。

■LOOPSオープニング

LOOPSディレクター・首藤康之と細尾真孝が、特別プログラムを披露します。二人の出会いから生まれた、バレエと西陣織が織りなす新たな舞台表現。世界的に評価の高い振付家・中村恩恵が振付・演出を手掛け、ベルリンを拠点に活躍する気鋭のピアニスト・福間洸太朗が出演。

日時:2016年9月3日(土) 13:30開演(13:00開場) / 14:15終演予定

料金:一般券 3,000円(全席指定・税込) / 当日 3,500円
  学生券 2,000円[当日座席指定 当日要学生証]

会場:ロームシアター京都 メインホール
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■首藤康之、細尾真孝 ディレクターズトーク


日時:2016年9月4日(日) 13:30~14:30
料金:無料
会場:ロームシアター京都 パークプラザ 3F 共通ロビー

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■伝統工芸ワークショップ

京都の伝統工芸を職人に学びながら実際に体験、制作するワークショップ。 今回は「木桶」と「金網」のワークショップを行います。
「京指物」と呼ばれる、木材の組み合わせだけで桶を作る卓越した技術を持つ「中川木工芸」と、京金網の老舗メーカー「金網つじ」の職人が講師を務めます。

日時:2016年9月4日(日) 13:00〜15:00


料金:前売り 2,000円(自由席・税込、材料費込み)※要事前登録

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