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西陣織が、テクノロジーと出会ってウェアラブルデバイスとなる。「細尾」12代目の伝統を継承するという考え

2016.09.01

(文章:塩谷舞 写真:川久保美桜)


海外旅行に行ったとき、周りを見渡せばみんな手にしているのはiPhone。画面を覗き込めば、LINEかInstagramかポケモンGO。手持ちのドレスがなければ、「ZARAはどこ?」で即解決する。

あらゆるモノが万国共通になっていくと、大都会の風景はどこも大体似たような感じになっていく。便利だけれども、あまりにもフラットでつまらない。

そんな時代だからこそ、その国独自のアイデンティティーとなるようなもののニーズが増えていく。さらに、ただ古くからある文化を継承するだけではなく、「伝統工芸×イノベーション」というキャッチコピーを掲げたモノが巷に続々と登場してくる。

けれども、新しい業界でゼロからビジネスを立ち上げるのとは、難易度が違う。緻密な技術を伝承する伝統工芸と、嗅覚と開拓心によって切り開くイノベーション。属性はあまりにもかけ離れている。その「嗅覚」がわからずにぐるぐると試行錯誤したり、人間関係の問題にぶち当たってしまうことの方が多いだろう。

この記事で紹介するのは、OKAZAKI LOOPSのディレクターの一人であり、1200年の歴史がある伝統工芸・西陣織の名家である「細尾」、その12代目である細尾真孝さん。

彼は恐ろしいほどに鋭い嗅覚を持った、西陣織のイノベーターだ。

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セックス・ピストルズに、初期のメゾンキツネ……カルチャーを愛した名家の長男

細尾真孝さん、38歳。彼の経歴は凄まじい。

「細尾」という西陣織の名家に長男として生まれたものの、家業には一切関心を持たず、高校時代にはセックス・ピストルズに心酔。ギターを鳴らしては叫んでいたそうだ。そこまでなら「若い頃は…」という思い出話程度で済まされるかもしれないけれども、その後プロミュージシャンとして高木正勝らと同じレーベルに所属。

かと思いきや、23歳の頃には初期のMAISON KITSUNÉ(メゾンキツネ)に影響を受け、ファッションブランドを立ち上げる。今から15年も昔、「キツネ」なんてブランドを知っている日本人がどれくらいいただろう。彼が立ち上げたファッションブランドも、名のあるセレクトショップに商品を展開。ここまでのエピソードだけを聞くと、彼がどれほど嗅覚と才能と運気に恵まれた人なのだろう、と嫉妬してしまう。

しかし、流通や卸売のことを知らずに始めたファッションブランド。ファンはつけど業績はついてこず、大手高級ジュエリーメーカーに就職して「商売」と「生産」のいろはを学ぶことに……。


音楽、ファッション、そして商売。いずれもその分野の第一線に食いかかっていった彼は、30歳にして会社を辞め、家業の西陣織を継ぐことを決意する。1200年の名家の歴史に「12代目」が就任した。

だが、西陣織のマーケットそのものは彼が生まれた30年前と比較して、10分の1にも縮小していた。周囲の家もみんな西陣織やその関連業を営む……という特殊な環境で生まれ育った彼自身、その衰退を誰よりも肌で感じていたことだろう。

一体どんな経緯で、そのエネルギーを家業に注ぎ込むことになったのだろう? そして「西陣織」という5世紀末から続く伝統工芸を、今どのような形で継承しているのだろう。

そんなことを聞きたくて取材に訪れると、先にいたお客さんは外国人のビジネスマン。なにか商談をしていた。「先ほどはどんなお話を?」と聞いてみるとー…

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バイオテクノロジーを取り入れた、光る西陣織

細尾「今開発中なので詳しくはお伝えできないのですが……西陣織に電子回路を織り込み、ウェアラブルデバイスとして構築していくための打ち合わせをしていました」

ーー西陣織に、電子回路を?

細尾「はい。西陣織の特徴のひとつに、様々な種類の細い糸を立体的に織り分けることが出来る……という点があります。150センチの生地の中に、縦糸が9千本入っている。その縦糸と横糸をプログラムで1本1本コントロールして織っていくと、布を複数のレイヤーに分けて、建築物のように組み立てていくことが出来るんですよ」

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細尾「たとえば、糸に特殊インクを染み込ませて半導体化させると、織物自体をスイッチのように扱えます。たとえばその織物を車の運転席のシートに使うと、運転手の体制を24時間スキャニングして、居眠りしたら自動的に車を止める……なんてことも出来るかもしれません」

ーーそんなところまで進んでいるんですか。

細尾「車のシート以外にも、アスリートのスポーツウェアや、宇宙服という展望もあります。さらには、バイオテクノロジーを取り入れることにも可能性を感じているんです」

ーー生物の遺伝子を組み込む、ということでしょうか?

細尾「はい。たとえばシルクを作るための蚕(かいこ)にクラゲのDNAを入れると、光るシルクが出来るんですよ」

ーーあぁ……確か光るシルクで出来たドレスを、新宿のGUCCIで見かけたことがあります。



細尾「アーティストの、スプツニ子!さんの作品ですよね。あちらの光るシルクは、細尾で制作・技術提供したものなんです」

ーーそうだったんですか!

細尾「クラゲ以外にも、たとえばクモですね。クモの糸って、束にするとスペースシャトルも持ち上げるほどの強度があるんです。まるでスパイダーマンの世界ですよね。そんなクモの強度を持った織物も作っていきたい」

ーー西陣織というと贅沢品というイメージがありましたが、なんと実用的な……。

マサチューセッツ工科大学にフェローとして就任

ーーでも、そのような織物の研究・実現は、当然従来の西陣織の工房だけでは難しいですよね? 一体、どんな研究機関と開発されていくのでしょう。

細尾「今年から、MIT(マサチューセッツ工科大学)にDirector’s Fellowという立場で入らせていただいたんです。そこで世界最先端の研究者と共同開発できるようになったので、これからはお話したようなクモの糸や宇宙服のような妄想も、彼らの研究と実行力をもって、共に実現させていきたい」

ーーそれは、本当に楽しみです。西陣織で出来たウェアラブルデバイスの宇宙服が出来たら、日本が世界に誇るものになりますね。

(※現在、MITのDirector’s Fellowに就任しているのは世界各国の24人。デンマークにある世界一のレストランnomaのサイエンティストや、サッカーの本田圭佑選手もその一員だ)

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ーーどのお話もあまりに刺激的なのですが、家業を継がれた30歳の頃、細尾さんの思想は周囲に受け入れられたのでしょうか?「若者がなにを言い出すんだ!」というような反発はなかったのでしょうか……?

細尾「大きな衝突はなかったですね。父も元々は商社勤務していましたし、歴の長いの職人もジャズのドラマーをやっていて。うちには、少しやんちゃな要素があるのかもしれない(笑)。もちろん、様々なアートやプロダクトにコミッションする今でも、帯を作るという仕事は細尾の軸としてあり続けています。

ただ、西陣織という技術を今自分がどう扱うか……ということ以上に、次の50年、100年、500年先の世代にどうバトンタッチするかも重要なんです。だから工房は若い人が中心になって、西陣織の未来を考えていきますね」

ーー1200年続いたものを、どれだけ遠い未来に伝えていくか……。絶やさず継承する、大切なお仕事ですね。

7km圏内の狭い範囲で、1200年間も継承されてきた強い文化

ーーちなみに細尾さんは、京都の伝統工芸を繋げた「GO ON」というプロジェクトも主催されていたり、「京都でクラフトビエンナーレを開催したい」と仰っていた記事もありました。やはり、生まれ育った京都という土地へも、思い入れがあるのでしょうか。

細尾「京都って、実はあまり国際都市化されてこなかった、と思うんです。もちろんポテンシャルはあるのですが」

ーーそうなのでしょうか?

細尾「世の中の工業製品は、各部品を異なる地域や国で生産することが多い。でも西陣織の場合、1200年の間、京都市内だけで作り続けてきたんですよね。それも”西陣”と呼ばれる、7km圏内の狭いエリアにすべての職人が集まっているんです。

これは、海外から見たときにも圧倒的なインパクトがあるんですよ。西陣織だけではなく、他の伝統工芸でも同じことが言えると思います。」

ーー確かに、どこの大都市もファストファッションやファストフードに文化が食われてしまう中で、京都のような揺るがない文化を持った都市は強いですよね。

細尾「クリエイターもどんどん移住してきているし、もっと面白い文化発信地になると思いますよ。

まもなく開催する京都岡崎音楽祭・OKAZAKI LOOPSでも、アートや音楽とのクロスカルチャーを掲げていますが、京都に根付く着物も、お茶も、お花、能や食も……すべてが生活と密に関わって生まれたクロスカルチャーですよね。

だから、OKAZAKI LOOPSのような音楽祭は今後、お坊さんや旅館の女将さん、料理人なんかも関わるものとして発展する可能性があって、面白みを感じています。その多様性を提供出来るのは、京都ならではの強みです」

バレエという西洋の伝統と、東洋の伝統が重なり合う

ーーOKAZAKI LOOPSで細尾さんは、バレエダンサーの首藤康之さんらが踊る公演の舞台衣装や、舞台美術を手がけられますよね。バレエという西洋の伝統的な文化と西陣織がコラボレーションするのは、歴史上初めてのことでしょうか?

opening首藤康之氏と細尾真孝氏による特別プログラム・LOOPSオープニング

細尾「おそらく、僕の知る限りだと、これが初めてですね。

ですが、西陣織は着物の帯だけではなくて、能の衣装やお寺の内装にも使われて来ました。それに僕自身はもともと音楽をやっていたこともあり、舞台表現には親しみがあった。

バレエという西洋の伝統的な芸術と、東洋の西陣織。どちらも歴史を受け継いできたものを、時間をかけて組み合わせていく……というのは面白い仕事ですね」

mainhall1会場となる、ロームシアター京都 メインホール

ーーどんな衣装や舞台装置が出来上がっているのでしょう?

細尾「ネタバレになるからあまり話したくないのですが……(笑)。でも、見たことのないものが出来ている、ということはお伝えできます。それも、見られるのはLOOPSオープニングの一夜だけ、という」

ーー本来贅沢品の西陣織を、一夜かぎりのパフォーマンスのために作り上げるだなんて、なんと贅沢な……。

細尾「少しだけお伝えすると、今回のシアターは天井が15メートルの吹き抜け。その環境で織物がどのように見えるか……ということを一番に考えて作っています。そして、その延長にバレエダンサーの衣装がある。衣装は、実際に踊ってもらって、動きやすさと、動いたときの見え方を考えてアップデートしていきました」

ーー東洋のバレエ衣装、楽しみです。音楽や映像も、このために作り上げたんですよね。 それはどなたが?

細尾「途中からピアニストの福間洸太朗さんが演奏されるのですが、出だしの音と、映像は私が……」

ーーえっ、細尾さんが?!

細尾「錚々たる音楽家やメディアアーティストの集まる、音楽祭のオープニングなんですけどね……そこで映像と音楽を披露するのは、なかなかのプレッシャーです(笑)」

ーー細尾さんの音楽とファッションのバックグラウンドが、どのような演出になるのか……そこも大きな楽しみですね。本日は本当に面白いお話を、ありがとうございました!

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ーー東洋と西洋の伝統を掛け合わせた、一夜限りのバレエ公演。1200年の「細尾」の歴史に、また新たな未来が示される夜にもなるのだろう。

細尾さんは、OKAZAKI LOOPS内でもトークショーや西陣織のワークショップを開催する。その鋭い嗅覚と豊かな発想に、是非とも生で触れて欲しい。

古いもの、新しいもの、様々な文化が集まる京都の祭。OKAZAKI LOOPSは、いよいよ今週末開催だ。

■LOOPSオープニング

LOOPSディレクター・首藤康之と細尾真孝が、特別プログラムを披露します。二人の出会いから生まれた、バレエと西陣織が織りなす新たな舞台表現。世界的に評価の高い振付家・中村恩恵が振付・演出を手掛け、ベルリンを拠点に活躍する気鋭のピアニスト・福間洸太朗が出演。

日時:2016年9月3日(土) 13:30開演(13:00開場) / 14:15終演予定

料金:一般券 3,000円(全席指定・税込) / 当日 3,500円
  学生券 2,000円[当日座席指定 当日要学生証]

会場:ロームシアター京都 メインホール
詳しくはこちら

■首藤康之、細尾真孝 ディレクターズトーク


日時:2016年9月4日(日) 13:30~14:30
料金:無料
会場:ロームシアター京都 パークプラザ 3F 共通ロビー

詳しくはこちら

■伝統工芸ワークショップ

京都の伝統工芸を職人に学びながら実際に体験、制作するワークショップ。 今回は「木桶」と「金網」のワークショップを行います。
「京指物」と呼ばれる、木材の組み合わせだけで桶を作る卓越した技術を持つ「中川木工芸」と、京金網の老舗メーカー「金網つじ」の職人が講師を務めます。

日時:2016年9月4日(日) 13:00〜15:00


料金:前売り 2,000円(自由席・税込、材料費込み)※要事前登録

詳しくはこちら

古代から現代へ、五木寛之氏が語る「土取利行」

ドキュメント | 2016.08.30

2016年9月4日(日)に開催される【ミルフォード・グレイヴス&土取利行 パーカッションデュオ『宇宙律動』】に出演する土取利行さんのご紹介です。


小説家・随筆家の五木寛之さんの著書『五木寛之の人間発見/伝説をつくる人たち』より、土取利行さんを紹介する一文を承諾を得て転載いたします。





「五木寛之の人間発見/伝説をつくる人たち」より
〜古代人の心と、音楽の源流を探求するワールドパーカッショニスト〜



「もし世界で第一線にたって活躍している日本人音楽家を3人上げろと言われたならば、すぐに3人の名が浮かんでくる。
クラシック音楽の小澤征爾、そして映画音楽やポップスの分野での坂本龍一、あとの一人を私はためらうことなく土取利行さんをあげるだろう。
土取さんは演劇音楽と、日本音楽の源流をさぐる仕事で、まぎれもなく国際的なアーチストである。
現代演劇の世界で、ピーター・ブルックといえば、あらためて言うまでもない最前線の作家・演出家だ。その仕事の大半の音楽を担当しているのが、土取利行さんである。

香川出身の土取さんは、十代の頃からモダンジャズのパーカッショニストとして大阪で活動をはじめた。上京後は近藤等則らとフリージャズの世界に進出する。やがてニューヨークで伝説のドラマー、ミルフォード・グレイヴスとの交流がはじまり、さまざまなミュージシャンと共演した。
ピーター・ブルックとの国際演劇活動に参加するのは、1970年代のなかば頃からだ。ブルック演出の『ユビュ王』の音楽を担当した時から、『マハーバーラタ』、『テンペスト』など、ブルック演劇の世界になくてはならない音楽制作者として、その位置を確立してきた。
『マハーバーラタ』の音楽を創るにあたってアジア各地をはじめ、世界音楽の源流をたどる長期の旅が続いた。また、郡上八幡に立光学舎を設立、そこをホームベースとして、桃山晴衣らとのさまざまなコラボレーションが試みられる。タゴール展の企画・監督・出演など、異色のパフォーマンスも多い。
日本の縄文時代の音を、土器や銅鐸などの品々を媒体として探求する仕事も同時に深まりを見せていく。


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私が土取さんと仕事でかかわりあったのは、『蓮如—われ深き淵より—』という舞台の音楽を彼にお願いした時からだった。とぼしい予算のなかで、私の強引な注文をいとも簡単に受け流し、アジア・シルクロードへと通底する日本中世の音楽を、土取さんは鮮やかに実現してみせてくれたのだ。
土取さんは痩せている。ちょっとみると仙人のようにも思われる。しかし、その細い体を核として、古代から現代、日本からアジア・アフリカ・欧米社会へ無限に広がっていくエラン・ビタールが発散していることを想像すると、小柄な土取さんがにわかに巨人のように感じられてくるから不思議である。
若くして伝説的なアーチストと交流した土取さんは、いまみずから伝説の人として現代アートの世界にゆっくりとその全貌をあらわしはじめているのだ。(五木寛之)



【ミルフォード・グレイヴス&土取利行 パーカッションデュオ『宇宙律動』】(詳細はこちら)

■日時:2016年9月4日(日) 13:00開演(12:30開場) / 14:30終演予定
■会場:ロームシアター京都 メインホール

■料金:一般券 2,000円[当日2,500円] ◯全席指定
    学生券 1,000円[当日座席指定 当日要学生証]

■チケットお問い合わせ先:
・ロームシアター京都チケットカウンター(075-746-3201)
・京都コンサートホールチケットカウンター(075-711-3231)
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彫刻家・名和晃平の新作は「舞台」まるで異様な生物のようにうごめく、森山未來らの肉体

2016.08.27

「これまでにない、新しい表現」と掲げられたエンタメ作品やインスタレーションが、日々生み出されていく。そこにはワクワクするような世界が広がり、数え切れないほどの写真がSNSに挙げ連ねられる。その光景は確かに、時代を作るムーブメントだ。

しかしその多くは「楽しかったね」の感想と共に、淡い思い出と化してしまう。喉越し最高の炭酸ジュースのように刺激的で、喉元過ぎれば刺激も忘れる。

東京のカルチャーど真ん中で過ごす私自身、せっせとこうした炭酸ジュースを摂取している。摂取した刺激が消えた頃には、また新たな刺激を取り入れる。どんどん仕入れて、どんどん消化して、まるで一種の中毒者のようだ。

しかしこの記事を書くための取材で、圧倒的に「しこり」を残し続ける異物にぶち当たる。それは取材後どれだけ経っても消化出来ない。荒れ狂う地獄絵図のようであり、生々しい性行為のようであり、胎児が生み落とされる瞬間のようであり………いや、たとえどんな文才がある書き手でも、アレの衝撃を伝えるのは無理だ。放棄したい。しかし、取材したからには、書かなきゃいけない。なんてしんどい役目だ。

(文章:塩谷舞 写真:川久保美桜)




——8月のある日、気温38度を記録する酷暑の京都。

私は京都市の二条城あたりから、急いでタクシーで取材先に向かった。メーターぐんぐん上がり、到着する頃には7000円を超えてしまう誤算……。思ったより、遠かった。

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流れているのは宇治川。その先には明治天皇伏見桃山陵が小さく見える。

京都市の南のほうにある、伏見区、宇治川沿い。ここに、日本を代表する彫刻家・名和晃平のスタジオ「SANDWICH」は建っている。

th_02photo: Nobutada OMOTE|SANDWICH

川久保玲が、蜷川実花が、そして世界中の名だたるアーティストや建築家、デザイナーたちが、名和を訪ねてここ伏見までやって来る。

メトロポリタン美術館のコレクションで、他のどの作品よりも注目を集めるこの鹿だって……

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この場所で、剥製からアートに生まれ変わった。

th_14photo: Nobutada OMOTE|SANDWICH

しかし。取材で訪れたのはここSANDWICHから2、3分歩いたところにある、もう1つのスタジオ。

「新作パフォーマンスの練習のため、本番の舞台と全く同じ広さで建設された」という新設のスタジオを、彼らは「アネックス」と呼んでいる。スタジオの床は、黒いビニールの上に水が溜められていて、そこには名和晃平氏と、世界的ダンサーであり、振付師でもあるダミアン・ジャレ氏の姿が鏡のように写り込んでいた。

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彼らが今ここで共に作り上げているのは『VESSEL』という新作パフォーマンス。彫刻家・名和晃平氏にとっては、初めて挑戦する舞台表現だ。

ここアネックスには7名ほどのダンサーがいた。男性は肌色の下着のみ、女性も肌色のブラジャーと下着のみ……そして、どのダンサーも筋肉は限界まで絞られている。そんな光景はなんだか刺激が強くて、私はどこを見れば良いのか、恥ずかしくって目が泳いでしまった。

その中には、森山未來氏もいた。こんな京都の南端の土手沿いの小屋に、名和晃平が、ダミアン・ジャレが、森山未來が集まり、新作を作っている。なんだこれは……なんなんだここは。

しばらくすると、ダミアン氏の指示のもとダンサーたちが組体操のように合体し、踊り始めるのだが……その異様な光景を、どう言及すれば良いだろう。

さっきまで「森山未來だ!」と好奇の目で見ていた男性はたちまちその個性を消して、「動く肉の塊」になる。もはや、どれが森山未來なのか…というより、どこからどこまでが個人の肉体なのか判断出来ないほど、人体が密に絡み合っていく。男も、女も。

それは性行為のようでもあるし、胎児が産み落とされる瞬間にも見えるし、カエルのような爬虫類かなにかの集合体にも見える。

いずれにせよ、これが私と同じ人体なのだろうか?

あまりにも奇妙で、あまりにも知らない世界が眼前に広がる。そんな光景をいつまでも見ていると、気がおかしくなってしまいそうだった。

06https://www.youtube.com/watch?v=nNInrZ2nOY8

だが、脈打つように動く筋肉や、浮き沈みする骨や筋、そして触れれば跳ねる水、広がる波紋……目を離す隙が、ない。

「これは、すごいですね……」と、会場の端で同じくダンスを見つめていた、音楽担当の原摩利彦氏相手に思わずつぶやいてしまった。原さんはこちらを見ずに、「そうでしょう。ダミアンの捉える、肉体への感覚は、すごいんですよ」と答えた。

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異様な時間は終わり、ダンサーたちは休憩に入る。私は名和氏と共にアネックスを後にして、また徒歩2分ほどのSANDWICHに戻る。さっきまで目にしていた異世界の景色と、周囲の平和すぎる田園風景がまるでミスマッチだ。

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実は名和晃平氏は私の母校・京都市立芸術大学の先輩であり、さらには同郷でもある。が、いくら経歴は近くとも世間話のネタが少しだけ増える程度で、彼にインタビューするのは難しい。

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——名和さん、つまらない質問かもしれないのですが……今回の新作『VESSEL』は人体彫刻として捉えているのか、もしくは舞台芸術を拡張するものなのか、どの歴史の上に位置付けされるものなのでしょう?

名和:これがどのジャンルに属すものか、ということを意識したことはありませんね。舞台表現というフォーマットを使うだけであって、基本的にはこれまでの彫刻的な感覚で作っているものと変わらない姿勢で美術の制作に取り組んでいます。

——ですが、舞台表現はひとたび「ヒット作」となると、場所を変えて、演者を変えて、何度も再演されていく……そのような公演方法は、彫刻作品を発表することとは異るように思います。

名和:たとえばインスタレーション作品だと、同じ作品でも、発表する場所や空間によって新しい形を発見しながら創り上げていくでしょう。今回の『VESSEL』も同じことで、公演の度に進化していくと思います。同じものを再演、ということは考えていません。

——以前『VESSEL』は一度大阪で発表されていましたが、その時とは異なる?

名和:まったく変わりました。基本概念は同じだけど、今回は全面的に水を使うし、環境も作り込んでいる。もっとスケールが上がって、世界観を深めることが出来るんじゃないかな。ダンサーの人数も増えます。

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—— ストーリーはあるのですか?

名和:セリフや台本のようなものはないですが、概念の移り変わり、という意味でのストーリーはあります。地面と身体の関係や、身体と液体の関係、そういうものが概念に繋がっていく。

—— 地面というのは、地質的なものでしょうか。

名和:いや、別の言い方だと「重力」と生き物の関係を基本的なテーマとしています。これまでの作品でも重力と液体の関係を考えていいました。地球上のあらゆる物質、たとえどんなに細かい塵でも、重力がかかっているしょう。だから、地表に沿って土や水は平らになろうとします。それで地形的には平野や、凹んだところに湖面、海面ができます。

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『FORCE』DIMENSION VARIABLE,MIXED MEDIA,2015


—— たしかに、2015年に名和さんが発表された『FORCE』では、降り注ぐ油がひたすら平らな液面になっていきました。

名和:そう。地面も、火山活動などによる隆起によって山になったりするけど、そこから何百万年もかけてまた平らになろうとしていく。

—— ふむふむ…

名和:湖や海になった水は蒸発して雲になり、またそれが凝結して雨になる。水は、地球の中では最もダイナミックに流転する物質であり、生命の源でもあります。雨が降り注ぐときに、人はなにかで受け止めて、それを享受しようとする。その受け止めるものがVESSEL(=器)なんです。

—— だから公演名に、VESSELというキーワードを使われているんですね。

名和:そう。生き物には「身体」という器があるけど、これもまた1つのVESSEL。生きている限り水を飲み続け、死んだら乾燥して屍となり、地面にかえる。少なくとも生き物にはそれに抗おうとする力があるように見えます。だけど、結局は地面に戻り、立ち上がろうとして、また地面になり……。

—— すごくわかりやすくいうと、地球と、生き物と、水の関係がそこに表されている、ということですか?


名和:そうだね。鉱物から植物、植物から動物、そして動物から人間という、フェーズが転移したり、”態”が変容していく様子も表現しています。

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—— うーん……さきほどダンスの練習を拝見したときには、私、そこまで理解出来ていませんでした…。

名和:いや、大丈夫。何かを肌で感じてもらえれば十分です。

—— 私はこのお話を聞いた上で観たい……ですが、なにも知らずに見ても、あの景色を見ると、自分の身体や、肉体のことをひとしきり考えてしまう、強烈な力がありますよね。ダンサーの顔もろくに見えず、もはや人間なのかもよくわからなくて……。

名和:そう。ダンサーはみんな基本、頭を隠していて、顔が見えないヘッドレスのポーズのまま踊ります。「我々はなぜこんな形をしているのか」と問うためにも、匿名性のある肉体にしたいんです。

—— 匿名性……それが「森山未來」であっても?

名和:そう。だって、どれが未来君が、わからなかったでしょう。

—— はい、わからなかったです(笑)。男性も女性もわからなくなって、みなさん信じられないような動きをされている。筋肉があそこまでバラバラに動くなんて。

名和:そう。ダミアンの振り付けは、ダンサーに酷なことばかりさせるよね。ものすごく柔軟じゃないと、あれは出来ない。

—— あんな筋肉の使い方、初めて見ましたよ。しかし、こうやって振付家の方と作品を創り上げる、というのも名和さんにとって初めてのことだと思うのですが……振付家と彫刻家、どのように意見を出し合うのでしょうか?

名和:まずはダミアンがあれこれ考えているので、それをベストの状態で魅せるにはどうするか、を僕も考えていきます。彼は色んなイメージが次々出る人。僕はそのイメージを、概念的に構成したり、舞台空間に落とし込んだりして、シーンを作っていきます。

そして、空間の中でダミアンが求めている表現に適した造形や配置を設計して、逐一ダンサー側にも確認して調整していきます。

—— それってすごく建築的なスキルが必要そうですが、名和さんは図面設計にも明るいですもんね。コンセプターであり、設計士であり……うーん、すごい。ちなみに、名和さんご自身は、ダンスにご興味は?

名和:……僕が踊るの? いや、それは無理やね(笑)。ラグビーはずっとしてたけど。踊るのはほんまに苦手……。

—— そうですか…脱線してしまって、失礼しました。では最後に。これからの『VESSEL』の進化予定は?

名和:まずは9月3、4日の京都・ロームシアターでのOKAZAKI LOOPSですね。その後、広島、横浜と公演が続くのですが、それぞれの場所の特徴に合わせて、新しいこともやろうと思っています。

—— 楽しみにしています。今日はありがとうございました。

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——京都・伏見の宇治川沿いで、彫刻家の名和晃平、ダンサーで振付家のダミアン・ジャレ、音楽家の原摩利彦、森山未來、エミリオス・アラポグルらのダンサー、そしてSANDWICHの造形作家たちが毎日練習や試作を繰り返し、に創り上げている『VESSEL』という舞台。その幕は、まもなく上がる。

それはけして、喉越しの良いものではない。明確なストーリーも、答えもない。観た人にはおそらく、大きな「しこり」が残るだろう。きっと、困惑するだろう。一体、これは何を目にしてしまったんだ、と。

彼らの舞台は、恐ろしいほどのインパクトで観る者をシュールな世界の渦に引き摺り込むだろう。

【VESSEL kyoto】(詳細はこちら)

■日時:2016年9月3日(土)・4日(日)※全2回公演
    3日 19:30開演(19:00開場) | 4日 15:00開演(14:30開場)
■会場:ロームシアター京都 サウスホール

■料金:前売り5,000円(当日5,500円)

■チケットお問い合わせ先:
・ロームシアター京都チケットカウンター(075-746-3201)
・京都コンサートホールチケットカウンター(075-711-3231)
・オンラインチケットはこちら


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7/16(土)10:00 チケット発売開始!ループスを満喫できるセット券も登場!

お知らせ | 2016.07.05

ロームシアター京都、京都コンサートホールのチケットカウンター他、各プレイガイドにてお買い求めいただけます。(※9月4日のワークショップ、LOOPSアフターパーティを除く)
また、各公演のチケットだけでなく、LOOPSを回遊できるお得なセット券も4種類ご用意しております!

2016年7月16日(土)10:00 チケット一般発売開始

詳しい情報はコチラ

前夜祭開催決定!YEN TOWN BANDと京都市交響楽団の夢の共演(9/2)

お知らせ | 2016.07.05

約20年の時を超えて、再び動き出した「YEN TOWN BAND」がオーケストラとの共演によるコンサートを行います。
他にもSalyu、藤巻亮太の参加が決定しました!

出 演
YEN TOWN BAND(CHARA、小林武史、名越由貴夫 他)
Salyu、藤巻亮太、京都市交響楽団(管弦楽)、広上淳一(指揮)

日 時
2016年9月2日(金)18:00開場/19:00開演

会 場
ロームシアター京都 メインホール

チケット
前売料金 全席指定席 一般券7,000円
学生券4,000円(当日座席指定 要学生証。一部舞台が見えにくい場合があります。)
※未就学児童入場不可

チケット一般発売日:2016年7月16日(土)

>> 詳細プログラムはこちら

OKAZAKI LOOPS公式サイトオープン!

お知らせ | 2016.06.21

ポップス系から伝説のジャズドラマー、気鋭のダンサーやピアニストら待望の豪華アーティストラインアップがついに発表!公式サイトもいよいよオープンいたしました。
最新情報やディレクターのインタビューなど、開催に向けて情報を公開していきますので、どうぞチェックされてください!

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